韓国雇用労働部は9月24、26日にソウルのCOEXで予定していた日本・東南アジア地域の就職博覧会「2019下半期グローバル雇用大展」の開催を中止するか、日本企業を対象から除外する方向で検討することを決めた。
雇用労働部関係者は4日、「韓日関係が悪化した状況にあるため、ひとまずイベントを保留することにした。日本企業を除外し、イベントの規模を縮小するなどさまざまな案を検討している」と説明した。同関係者は「韓日関係がぎくしゃくしているのに、韓国政府が『韓国の青年を採用してほしい』と就職博覧会に招くのは体裁が悪い」と述べた。
朝鮮日報オンライン8月5日配信記事「韓国は日本企業就職博覧会を保留、日本は韓国旅行に注意喚起」
日本、韓国ともに、日韓関係の悪化が各メディアで報じられています。
8月2日に日本が安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る「グループA(旧・ホワイト国)」から、韓国を外す決定を行いました。
これに対して文在寅大統領は「決して座視しない」(2019年8月2日・共同通信)と強い口調で批判。
以後、日本製品の不買運動や日韓交流の中止、韓国人観光客の日本旅行取りやめなどが相次いでいます。
8月15日は日本にとっては「終戦の日」ですが、韓国にとっては「光復節」。同日に、文大統領がさらに日本批判を強める(または日本旅行の規制等の報復措置)を発表するのでは、との観測も出てきました。
さて、外交の専門家でもなく、韓国の専門家でもない私がなぜ、日韓関係に言及しているのか。それは、もちろん、私の専門である就職にも影響が出ているからです。
韓国雇用労働部、日本企業締め出しへ
今年9月にソウルで開催予定の就職合同説明会について、韓国雇用労働部は開催中止か日本企業の対象除外を検討、と朝鮮日報日本語版オンラインは報じています。
事実上の締め出し策で、そこまで嫌日が進むのか、と思うとため息が出ます。
これは日本企業にとっても、韓国人学生にとっても、双方にダメージを与える愚策と言えるでしょう。
韓国・就職難から日本への就職者が増加
韓国では1997年のアジア通貨危機以来、雇用の非正規化が進みました。
サムソン電子、ヒュンダイなど財閥系企業は世界レベルにまで躍進しましたが、そこに就職できるのはごく少数。
そこで2010年代から恋愛・結婚・出産を放棄する若者を「三放世代」と呼ぶようになりました。さらに、「就職」「マイホーム」も放棄する(放棄せざるを得ない)「五放世代」へ。そして現在は「人間関係」「夢」も放棄した「七放世代」とまで呼ばれています。
2015年頃から、韓国国内では「ヘル朝鮮」というネットスラングが一般化しました。失業率の高さ、自殺率の高さなどから「地獄(ヘル)のような韓国」と自嘲する意味があります。
2019年1月30日には「就職できないからヘル朝鮮だと言わず、ASEAN(東南アジア諸国連合)をみればハッピー朝鮮だ」と語った韓国政府高官が辞職に追い込まれています(朝日新聞2019年1月30日朝刊「ヘル朝鮮なら『ASEANで働けば』暴言の韓国高官辞職」)。
あまりにも長く就職氷河期が続くため、2010年代から日本国内に就職する韓国人学生が増加していきました。
これは日韓関係が悪化しだした2018年以降も同様です。
2019年6月28日、大阪のG20サミットにて日韓首脳はわずか8秒しか握手しませんでした。
これは日韓関係の悪化の象徴として、報道されましたが、同日、韓国で開催された日本企業の合同説明会は盛況だったのです。
韓国から日本への就職者、6万人突破の理由
国内労働市場が冷え込んでいる中、日本企業は韓国の求職者たちにとって一筋の光となっている。日本の厚生労働省の統計によると、日本で就職した韓国国籍者は2013年の3万4100人から昨年は6万2516人へと5年間で約2倍に増えているという。
日本の厚生労働省が発表した30年平均の有効求人倍率は1.61倍で45年ぶりの高水準となった。大卒就職率は98.0%でほぼ全員が何らかの職を得られる。一方、韓国の就職難は深刻で、大卒就職率は7割に満たない。韓国政府が打ち出した最低賃金引き上げによる人件費負担に耐えられなくなった企業の雇い止めが増加し、雇用状況が悪化したことも景気低迷に拍車を掛けているとされる。
産経新聞2019年2月19日朝刊「韓国学生、日本就職を熱望 仕事がない…関係悪化でも後絶たず」
韓国は日本以上に大手企業志向が強いのですが、それは単にブランド志向というだけでなく、賃金格差が相当ある、という事情もあります。
大手企業に就職できなかった韓国人学生からすれば、韓国の中小企業に就職するよりも日本の大手企業または中小企業に就職する方が経済的利益が大きいのです。
日本企業の技術力が高く、雇用が安定
商品・製品を大きく分類すると、消費財・生産財・中間財に分かれます。
消費財は消費者向けの完成品、生産財は消費財を生産するのに必要な機械・部品などです。
中間財は消費財・生産財の中間で建材などが当てはまります。
例えば、自動車だと消費財は自動車そのもの。消費財メーカーは日本だとトヨタ、日産など、一般知名度の高い企業ばかりです。
では、その自動車を製造する機械のメーカーは?自動車のネジを作るメーカーとそれを扱う商社は?
となると、一般知名度は途端にゼロに近づきます。
それはそうでしょう。機械メーカーや機械・部品を取り扱う専門商社は消費者相手ではなく企業相手になるのですから。
韓国であれ日本であれ、それ以外のどの国でも、この消費財・生産財・中間財という分類は当てはまります。
さて、日韓関係の悪化を決定づけた輸出管理(韓国側の言い方では経済報復・輸出規制)ではフッ化水素など3品目が対象となりました。
フッ化水素は半導体・ディスプレイ製造に必要な製品です。
特に高純度フッ化水素(純度99.999%、通称「ファイブナイン」)は日本の技術力が高く評価されています。
そのため、ロシア・中国など他国が製造するフッ化水素では、現在の韓国メーカー各社には適合しません。仮に適合するとしても製造ラインの見直しなどで相当期間かかる、と言われています。
この輸出管理で図らずも日本の技術力の高さが明らかとなりました。
そして、この技術力の高さが雇用の安定にもつながっています。
なお、技術力の高さ、というと理工系の学生だけ、と思われがちですが、営業なども含め総合職採用で文系採用も多い点を付記しておきます。
日本企業は人不足
日本は2008年のリーマンショックの影響で2009年~2011年ごろまで就職氷河期でした。しかし、2012年ごろから改善し、2013年ごろから売り手市場に転じ、現在に至っています。
「韓国人材欲しい」が9割強 日系企業に調査、KOTRA[経済]
NNA2018年10月25日記事「『韓国人財欲しい』が9割強 日系企業に調査、KORTA」によると、
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が日系企業177社(105社が回答)の人事担当者に実施したアンケートで、9割強が「韓国人材の採用を希望している」と答えた。
とのこと。回答した企業のうち、4割強は「韓国でビジネスを展開していない企業」とも記事にあります。
こうした4点の理由から、日本企業に就職する韓国人学生が増加していきました。
今後、日韓関係がさらに悪化した場合(素人目にも改善はしそうにないですが)、就職・採用という点で日本企業と韓国人学生、どちらの損失が大きいでしょうか。
日本企業からすれば、韓国人学生の採用によって解消できた人手不足がなくなるのは痛手です。
ただ、ものすごく痛手か、と言えばそこまでではありません。
日本人学生、既卒者の採用や外国人留学生でも他国からの採用を増やせば済むからです。
一方、韓国人学生からすれば、賃金・福利厚生が高く、そして安定している日本企業への就職が閉ざされるのは、大きな痛手となるでしょう。
日本以外の海外就職をするにしても、アメリカは就労ビザが厳しく、ヨーロッパ諸国も同じ。中国は賃金が高いとは言えず、これはアジア諸国も同様です。
日本では、韓国人観光客に対するヘイト事件は発生していません。
韓国では、韓国人学生が日本企業への就職を回避しよう、という動きは今のところ出ていません。
それから、日本製品ボイコット運動などが起きていますが、一方で、ソウル都心に「NO jAPAN」の旗が掲示されたところ、批判が殺到。半日で降ろす事態となりました。
韓国で、米大統領の訪韓に反対する市民デモ
「散々いじめてきた相手に懲らしめたい!」